医学生2(ある夜の出来事)

2017.9/15

普段、話すことがないKを飲みに誘ったのは、大学に入学して一年が経った頃である。
Kはおとなしい性格で真面目な男だった。

夜、駅前で落ち合うと私が知っている店へ彼を連れて行った。

私も大学内ではおとなしい部類であった。
昔からそうだったが、私は、普段所属している集団の中ではなかなか自分を出せず、どちらかというと恐縮してしまう性質(たち)である。
だが、私のおとなしさはKのそれとは若干異なる気質で、夜、盛り場で遊んでいる時やアルバイト先のスナックで酔客を相手にしている時などは幇間じみた性格が自然と顔を出した。

この夜もおとなしいKを楽しませようと、お調子者に努めていたように思う。
ほぼ初対面に近かったが、だんだんとKのキャラクターが掴めてきた。
なんとも真面目な彼である。
それでも若い男二人が酒場で向かい合っているわけであるし、ましてや脇には酒場女性が水割りを作ってくれていたりすれば、話題は自然と女性がらみのものになってくる。
そのへんのジャンルになっても、なんとも真面目な彼である。
だからといって女性の手もつないだことが無いときたら、すこぉし爽やか過ぎる。

あまりにも澄んだ水じゃあ魚も泳ぎまい。

私の中にちょっとした悪戯心が沸き起こった。

河岸をかえてちょっと面白いところに行かないかと、私はKを二軒目に誘った。
当時、私がよく飲みに行っていたオカマバーに入った。
平日の夜ということもあり客は私達だけであった。
カウンターに座り、私が煙草を一本吸い終わる頃にはKはオカマ達からいじられ始めていた。
もっともこの後、いじられるのが言葉の上だけではすまなかったのは私も予想しなかったが。

オカマが三人いて三人ともKにかまっているものだから、私はもじもじしている彼をずっと見ているのにも少し飽き、夜風に当たろうと外に出た。

三十分ほどぶらぶらして地下にあるその店に戻った。
ドアの外にいてもKを取り囲んだオカマ達の声が中から聞こえてくる。

カウンターに戻るとオカマ達はアミダクジをしていた。
三本のアミダクジの一番下にはKの名前が書かれていた。
誰がKをお持ち帰りするか平等にクジで決めていたらしい。

オカマは民主主義である。

ナオコという元体操部(新体操ではない)のオカマがKに抱きついた。
私はもちろん座興のつもりだろうと思っていたから、羨ましいねえ、なんて笑いながらKに声をかけると席を立った。
Kとは家の方角も逆であったし、彼も一人で帰れぬほど酔っ払ってはいなかったので私は先に店を出た。

家に帰る途中、Kのことがちょっと心配になり店に電話をかけてみると、大ママが出た。
あら、あの男の子ならナオコと一緒に帰ったわよ、と事もなげに言った。

翌日、学校で会ったKに昨夜の事を尋ねると口ごもってどうも要領を得ない。

二、三日経ってその店に再び私は顔を出した。
カウンターに座るとナオコが科を作りながらその夜の事を話してくれた。

とてもじゃないが素面じゃあ、書けない。
二十年近く経った今でも、ちょっぴりの罪悪感を覚えて、口ごもってしまう。
ただひたすら、苦笑いをしてしまうだけだ。


監督 池谷 龍一

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