コロナ記2 ~私見と交錯する各人の思惑~ (令和2年12月)

2021.1/9

▶︎議事録(前半):コロナ記2 ~院内全体会議議事録より1~ (令和2年12月)
▶︎議事録(後半):コロナ記2 ~院内全体会議議事録より2~ (令和2年12月)

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しかし。

この度の、ナース派遣に関する院内全体会議。
俺が会議室に入った瞬間、みんな、目が血走ってるんだもん。
三越の株主総会じゃないんだから。(たとえが古いか)

保身と犠牲、

面子と実情、

お金と義理、

腹の探り合い、

マスコミに対する意識の高まり…

雰囲気としては、思いきり、謝罪会見みたいなもので、”多目的トイレは使ってません”みたいなジョークなんて、言える雰囲気じゃなかった。

しかし、あらためて、今、思う。

自らの意志で、A病院へ行くことを決め、身体を張り、行動で示してくれたY看護部長とS師長。
そして、この2人が不在中の院内業務をフォローしていくと決めた他の病棟師長たち。
俺は、彼女たちの眼を忘れることができない。

動じることのない美しい眼だった。

勇気とは困難さにおける気高さ、だった。

彼女たちは、派遣に臨むにあたって、危険を顧みず、身をもって、責務の完遂に務め、患者さんたちならびにA病院の疲弊しきっている職員の方々の負託に応じることを誓ったのだ。

腹をくくったのだ。

しかしながら、ネット民の詮索力が凄すぎる。

中世の魔女狩りをやってる頃から、人間のメンタルは進化してない、と思う。

公開処刑、魔女狩り、村八分。

人間の感情の中でも、極めて、本能や原始に近いところに位置するものが、そうさせるんだろうな。

差別、嫉妬、歪んだ正義。

このようなとき、高次機能は制止状態となり、原始機能をベースとした衝動を、止められないんだろうな。
そこに、SNSが介在しているのが現代的な恐怖。

一億総・監視・評論・指導(あくまで、ネットで、匿名で)時代。

誹謗中傷時代でもある。

匿名だから、自らを省みる機会がないのだと思う。
基本、SNSは、文責無しの、言いっぱなし。
下手すれば、ヒューマニズムや理性で、自粛警察や犯人探しをしている、と思いこんでいる、彼等は。

歪んだ善性より性質(たち)が悪いものはない。

悪貨は良貨を駆逐する。

医療従事者に感謝の色紙を書くのも市民。
医療従事者の子供というだけで学校に通わさせないと騒ぐのも市民。
陽性者への差別を止めようと言うのも市民。
陽性者に心ない言葉を投げかけるのも市民。

怖いっす。

また、一方で、経済を回さないと、たくさんの人が首をくくらないといけなくなってくるだろう。
コロナじゃなくて、経済破綻で殺される。

医療、福祉、進学、就職、結婚、老後…。

すべての面において、経済活動が、やはり、土台になっている。

医者ばかりやってると視野が狭くなる(泣)

あらためて…、

過度に恐れず、
普通に恐れよう、
コロナとそれを取り巻く社会を。

もっとも、ウイルスの変異が起きれば、検査キットもワクチンも…、って話。
でも、俺たちは、愚直に、発熱外来を続けていくしかないわけで。

しかし、こういった情報(not good news)は、現時点では、正しく情報を咀嚼できる人にしか、流せない…。

つまり、

人間は、

情報が入らないと不満、

その一方で、

情報が入ると不安、

難しい生きもの。

また、入院患者さんの発熱の原因が、【明らかな誤嚥性肺炎や尿路感染だった】としても、職員による持ち込みは否定できず…
かといって、神経質になり過ぎるのも、困ったものだ。

とにかく。

体調を崩すことが悪いことではない。
コロナに感染することが悪いことではない。
ただ、それらに対して迅速な対応ができないことは、懸念されるべき次のトラブルにつながる。

きちんと、カミングアウトしていただき、検査とゾーニングで、クラスターになった、としても、最小限の被害で留めたい。

もはや、災害である。
災害で、最も生存する可能性が高いのは、周囲から失笑されるくらいに、大袈裟な対応をする人、なのかもしれない。

また、受験生や就職するお子さんを持つ親御さんスタッフが後ろめたい気持ちにならない体制をつくりたい。つくらないといけない。

俺は、職員たちの健康を心配する。

職員たちは、自分たちの家族を心配する。

ゆえに、俺は、職員の家族のことも心配する。(こういうのも三段論法というのかな)

スタッフにかけたい言葉は、
『無理はしないでください』『休めるときに休んでください』
そして、保温と保湿と水分を、だ。

まあ、でも、ひとりでやれることなんて、たかが知れてる。
身体はひとつ、1日は24時間だ。

現時点における俺のスタンス。

同情はしない、でも、薄情にもならない。

干渉もしない、でも、傍観もしない。


監督 池谷 龍一

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