コロナ記2・補足 ~ウイルスと変異と抗体と~

2021.1/14

T大学の農学部で准教授をしているNくんという男がいまして。

中学の同級生。専門が免疫学。

この度の、コロナウイルスに関して、いわば、免疫のプロである彼による見解を聞くことができた。

彼、いわく(以下、彼からの文章を引用する)、

【いっけー(私の中学時代のあだ名である)の院長としてのマネージメントの大変さを、すごく理解しました。

ウイルスに感染する

免疫応答(液性免疫:IgM、IgGもしくはIgA、細胞性免疫:細胞傷害性T細胞)誘導

ウイルスが排除される/もしくは、ウイルスが変異する

初期感染で獲得した免疫が、変異ウイルスに対応できない場合(通常はそうなる。なぜなら、免疫反応を回避すべく、ウイルスは変異するから)は、新型ウイルスに対する新たな免疫応答が誘導される。

でも、それが間に合わない場合は、ウイルスの異常増殖(通常、変異型は感染性が増加しており、免疫により排除できない)といった流れになるよ。

新型ではない通常のコロナウイルスの自然感染により免疫記憶がある場合(大半はそう)、コロナウイルスに対する免疫がすでにメモリーされているけど(新型コロナに反応するかは別として)、それは、検出できるレベルではないと思う(記憶免疫とは、非常にごくわずか…。でも重要)。

もっとも、新型コロナウイルスにより類似の免疫応答が誘導される場合、通常のコロナウイルスに対する免疫記憶が回復し、強力な免疫が迅速に誘導されることもある。

でも、抗原性がマッチしない場合、新型コロナウイルスに対する免疫応答は初期扱い。

なので、一般的には、新型コロナウイルスに特異的な免疫応答が重要と理解されており、それが理由で、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が必要である、と考えられている。

長くなってしまったけど、このような背景の中で、新型コロナウイルスの有無をPCRで検出すること、あるいは抗体の有無をキットで検出すること、何が正しいか、非常に難しい判断だと思う。

そもそも、ここまで感染が拡大すると、変異を出さずに、ワクチンもしくは自然感染により集団免疫が獲得される(人類の大半が新型コロナウイルスに対する免疫を獲得する)ことが最も理想的かもしれない…。

しかし、イギリスのウイルス変異の流入を見ると、それは難しいのかもしれない。

病院のスタッフのメンタルを考えれば、ウイルスの有無、抗体の有無、双方を検査して、身の安全を説明し、安心して働ける環境を作ってあげることが、スタッフに頑張ってもらうためにも重要なことかもね。

ウイルスに変異が生じる場合、ウイルスの表面に存在するスパイクタンパク(宿主の細胞と結合する分子)のアミノ酸に変異が生じる(違うアミノ酸に変わる)ことで、ヒトの標的細胞への親和性が突然向上し、感染性が高まるケースが大半。

そのような変異が生じた箇所(スパイクタンパクのアミノ酸の一部)に、再び獲得免疫(抗体)が誘導され、ウイルス感染が阻止されればいいけど(この場合の抗体を中和抗体という)、そうでない場合(それ以外のところを認識する抗体が作られても)、まったく感染阻止には無意味ということになるよ。

抗体が認識するアミノ酸はたかだか6個程度。

だから、ピンポイントで抗体がスパイクタンパクの重要な個所(感染に関わるところ)に結合しない限り、検査キットもワクチンも意味がないということになる。

正直なことを言えば、市販のキットで抗体の有用性(必要とされる特異性を有した抗体が含まれているか否か)を証明することは残念ながらできないので、ウイルスを認識する様々な抗体の中に重要な認識特異性を有したものがあったらいいな…、程度の理解でいいと思うよ。

また、ワクチンができたとしても、その有効性を評価した疫学的調査結果を見ない限り、何とも言えないから…。】

私は、Nくんのレポートの内容に感服した。

そして、忙しいのにも関わらず、この時点(R2.12月下旬。ちょうど、イギリスと南アフリカにおける変異ウイルスの報告があった頃だ)での、免疫学のプロとしての見解を、すぐに送ってくれたことに感動を覚えた。

彼と知り合ってから、およそ30年が経った。

エッセイスト島地勝彦が言っている。

“何よりも尊いものは友情である”。


監督 池谷 龍一

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