コロナ記〜備忘録〜(令和2年5月)

2020.5/7

コロナ、コロナ、コロナ。

当院は、令和2年3月から、来院者全員、正面玄関での検温を開始した。
ここで看護師さん2人を取られるのは、正直、痛い。
どの有資格者も人手不足の当院である。

37.5℃以上の方々は、隔離コーナーで呼吸器内科的な問診。
現在のところ、たいがい風邪だと思われるが(肺炎まで至らず、味覚障害や倦怠感も無い)、まずは、対症療法。
そもそもの定期薬も処方。
38℃以上は、患者さんを車から降ろさず、我々はフェイスシールドを付けて、窓越しに診察。
処方箋を渡すのではなく、薬剤師さんが、やはり、車内で待っている患者さんのところまで、薬そのものを持っていく。
いわゆる、ドライブスルー形式。
外来は、そんな感じである。

新規入院は、まだ熱発を伴うケースは無く、これは、もう祈るしかないという…(当院は、ベッド180床の精神病院)。

産業医としては、感冒症状を呈した職員への対応、これに神経を遣う。
陽性者と濃厚接触した者の扱いはマニュアル通りでいいが、濃厚接触者と接触した者はどうしましょう(かつ、どこからを、“接触“とするか)、という無限ループのようなロジックとなり、キリがない。
また、濃厚接触が疑われる方を、こちらからの指示で出勤停止にした場合、給与保証はどうするのか、これも論点の1つ。
そして、疑わしきを全て、出勤停止にしていたら、職場が回らず…。
たとえば、看護師さんの場合、たちまち、夜勤シフトが埋まらなくなる。
毎日、状況が変わるので、毎日、判断が求められる。

個人的には、2月下旬までは、会議や研修会における司会や演者をギリギリやっていたが、それ以降、少なくとも現在に至るまで、すべて延期・中止。

臨戦体制ではなく、とっくに戦時体制(戦争は体験したことないが)。
相手はサイレントキラー。殺し屋である。
こちらも死に物狂いで向かわないといけない。
そっと後ろに立たれたら終わり、だ。

腹をくくって挑むしかねえや、長期戦。

そして、コロナによるメンタル、教育、経済へのダメージ(内科的以外の)。

たとえば、飲食店の方々の収入減。
シングルマザーの方も出勤が減り、休校中のお子さんと自宅待機。
やはりイライラするのだろう。DVに至ってしまうケースもあった、と聞いた。
そして、飲食店が店を閉じれば、ビルのオーナーたちは家賃収入を失う。
ありとあらゆる分野において、コロナが、ありとあらゆる方々に、経済的かつ精神的なダメージを、日常生活に支障をきたす程に、与えている。
感染症(ウイルス)が、政治と経済と心理を、猛烈な勢いで圧迫している。

また、差別の問題もある。
たとえば、某町における家族内クラスター感染。
感染者が住む家の窓ガラスが破られた、という知らせが入った。石を投げられた、という。
結局、この家族は引っ越しを余儀なくされたそうだ。
村八分や魔女狩りという言葉が頭を過ぎる。
これから、心理的な介入を必要とするケースが増えていくことだろう。

今日現在(令和2年5月)、私は、当院スタッフたちの燃え尽き(burn out)を懸念している。
現在(いま)、かれらは、burningしている。だから、現場が回る。
しかし、この状態が3ヶ月も続けば、スタッフたちは、燃えつきていく。
スタッフたちの体調管理チェックを6月にするつもりだ。
食べれているか、眠れているか、仕事の能率は変わっていないか、余暇にリラックスできているか、など。

私自身は、淡々と粛々と、感染対策をしつつ、ルーチンをこなしていく。
頑丈に産んでくれた両親と、支えてくれているスタッフたちに感謝しつつ、タフにクールに、もちろん自分自身のメンテナンスも忘れず、この地区における精神科医療のお力になれたら、と思う。

P.S.
当院は、この地区で発生したコロナウイルスの濃厚接触者の周りの方々のメンタル相談を始めた。
市からも、是非やってほしい、と。
まずは、パニック状態になっていた保育園へ、保育士さんや園長さんを対象に、当院の心理師たちに緊急介入していただいた。

また、施設内でクラスター感染が起きてしまった老健施設へ、お手紙をしたためた。
以下は、その抜粋である。なお、固有名詞は伏せた。

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職員の皆様へ
平素よりお世話になっております。新庄明和病院の池谷龍一です。
思いもよらないことが起きてしまい、職員の皆さまは、さぞかし困惑しているのではないでしょうか。私自身も、日々、状況が変わる中、時には困惑を覚えながら、診療現場に立っています。
そのような中、自分も感染してしまうのではないか、家族や大切な人に感染させてしまうのではないかと考えてしまい、不安や恐怖の毎日を送っているのではないでしょうか。そして、なかなか先が見えづらい状況に、気持ちがくじけそうになっているのではないでしょうか。皆さま、本当にお疲れ様です。皆さま、本当にありがとうございます。心より感謝しております。
職員の方にお願いがあります。
職員の方同士で、「お疲れ様。ありがとう」とお互い声をかけ合ってください。同じ境遇だからこそわかる、不安や恐怖、どうにもできない無力感があるのでは、と思います。そして、自分たちが、どれだけ頑張っているか、わかってもらえない悔しさもあると思います。
職員同士、ちょっと話ができるときには、話をしてください。涙が出てきたときには、我慢せずに泣いてください。泣くことで、ほんの少しだけすっきりするかもしれません。
また、ご自身の体調管理にもお気をつけください。気の休まらない毎日に、ご自身の身体もこころも悲鳴を上げていることが予想されます。
〇〇所長や〇〇先生と連携をとりながら、当院でもご相談に応じたいと思います。
くり返しになりますが、今、こうしている現在も、介護現場に立たれている皆様方に敬意を示します。
来年は穏やかな気持ちで桜を見ることができますように…。

新庄明和病院 院長 池谷龍一

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監督 池谷 龍一

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