口から出た言葉

2017.8/13

精神科の診察室。

「ありのままに、素直に思ったこと、きちんと話せるかな…」と少し困惑した表情でつぶやいた女性がいた。
素直に話せない、頭が真っ白になる、言葉が見つからない、ただ単に口を開きたくない、なんとなく喋れない、感極まって泣いてしまいそうで話すどころではない、など。
しかし、全てのリアクションが、台本が無い以上、“ありのまま”だ。

「先生は、自分の思っていること、本当のことを話せる?」と患者さんから治療者である私が聞かれたことがある。

少し考えた。
そもそも、口から出る言葉は全て本当ではないか。
仮に、真実とは違うことを口にしてしまったとしても、言葉となって、自分の心の裡から外に出た瞬間に、現実世界においては、“本当”になってしまう。

“本当”や“現実”は、“真実”でないことは珍しくない。


ちなみに、“嘘”という字は、口にして虚しい、と書く。


監督 池谷 龍一

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