死んだ人間は文句を言わない

2019.9/17

36歳で死んだ友人の墓参り(精巣癌、そこからの様々な部位への転移だった)。

タクシーの車窓から、二十歳まで過ごした懐かしい街の風景を眺めながら、彼が眠る墓地へ。
急いでくれませんか、運ちゃんに言いかけた。
ふと気がつく。

「死んだ人間は、いくら待たせても、文句を言わない」

私は、黙ったまま、タクシーの後部座席に座っていた。


墓前に座り、線香を上げさせていただき、“今も、彼が居るがごとく”、声を出して、彼と話をしようとした。

亡くなる3ヶ月前から、ホスピス病棟に入院していた彼。
癌の骨転移による痛みで顔をしかめているか、疼痛を緩和するために注射されていたモルヒネの影響もあったのだろう、意識が朦朧としていることも少なくなかった。

私が見舞いに通っていた当時、そんな状態の彼へ声を掛けられなかったように(もしくは、「大丈夫だ!近いうち、また来るからさ」としか言えなかった)、墓の前でも、私は彼に話しかけることができず、ただひたすら、呆然と、彼の名前が刻まれた墓石を見ているだけだった。

陽が暮れた。
「また、来るよ」としか言えなかった。


監督 池谷 龍一


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